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〝いのちの食〟を味わう
信州・伊那谷のリトリート

〝いのちの食〟を味わう信州・伊那谷のリトリート

私たちが口にする食材や調味料は、スーパーで生まれるものではなく、すべて自然が作ってくれるものです。大地の恵みをいただいていることを、頭ではなく、身体で知ること。それも大切な食事療法ではないでしょうか。今回は、長野・信州の伊那谷に暮らす女性たちが開いたリトリートを取材し、食と自分に真摯に向き合う様子をレポートします。
取材・文◎小笠原英晃

食が変わると身体も意識も変わる

「いのちを再び輝かせる」という意味を持つ〝リトリート〟。その言葉のとおり、忙しい日常からしばし離れ、豊かさが残る美しい里山で滋養に満ちた手作りの自然食をいただき、大地と自分の鼓動を響き合わせる―今回、そんな素敵なリトリートプログラムを企画・コーディネートしてくれたのは、長野県・伊那谷の山奥に暮らすアロマセラピストの夏秋裕美さんです。
夏秋さんは、かつて都内のサロンやリゾートホテルスパでアロマのセッションを重ね、株式会社フレーバーライフ社のアロマ事業部で商品開発や講師、スクール運営などに携わってきたキャリアの持ち主。アロマセラピストのトレーニング中に、自然療法の一環として食を学んだことを機に、それまでの食生活を見直すようになったと言います。
「バブル期に20代を過ごしてきた私は、美味しいものが大好きな飽食家でした。でも、自然食品店で質の良い調味料を選ぶようにしたら、少しずつ身体や意識が変わっていくのを感じたのです。そこからいろんな食材にこだわったり、マクロビオティックにもハマりました。そして、自然農を実践している方と出会い、山の沢の湧き水で入れてくださったハーブティーの透明な美味しさに目からウロコが落ちるような体験をして……。本来の自然や生きているものが持つエネルギーの素晴らしさを肌で感じたのです」(夏秋さん)
〝都会にある自然のもの〟との圧倒的なパワーの違いを知った夏秋さんは、より本質的なものや体験を求めて、家族と共に伊那谷に移住。この地で野菜づくりや麹からの味噌や醤油の仕込みをして、自然を尊び、大地にしっかりと足をつけて生きる女性たちに感銘を受け、農地を耕さずに作物を育てる自然農を始めることとなりました。
今回の集いは、夏秋さんを中心に、野草料理と養生法を行う石井ゆかりさん、元料理人の尼僧であるさんがナビゲートし、1泊2日で開催されました。季節は9月初旬。1日目は野草探しと、摘み取った野草や自家製野菜に、手作りの調味料―大豆や麹から自家製で仕込んだ五年味噌、醤油、醤油麹、梅酢、三年梅干し、漬物などをふんだんに使った昼食づくりです。午後には野草茶を飲みながらお話会。夕方、温泉で身体をゆるめたら、夜は精進料理に舌鼓を打ちます。翌日は、お寺で湧水汲みと川遊びで水のエネルギーを感じ、ブランチを挟んで野草の使い方講座を開催。参加者は、ヨモギのフェイシャルスチームや手浴、足浴を行い、インフューズドオイルやマコモダケの使い方などを教わりました。
〝いのちの食〟ともいえる自然のエネルギーに満ちた料理や、五感を取り戻すプログラムの模様をかいつまんでお伝えします。

家の近くにある野草を食材としていただく

一日目に主としてナビゲートしてくれたのは、長野・高遠町で温めサロン「かり~にゃ」を主宰する石井ゆかりさん。一家で横浜から移り住んで12年目になるという石井さんは、夏秋さんが信頼を寄せる移住者の先輩でもあります。石井さんは、お子さんがアトピーに苦しんでいたことから、野草の達人として知られる〝若杉ばあちゃん〟に野草の使い方を教えてもらったり、マクロビや漢方についてもさまざまな場所で学んできました。
初日に行った野草摘みプログラムではまず、夏秋さんの自宅周辺にある野草を観察。食と養生(手当て)のために使う野草や野菜を摘み取りました。この時期に観察できる野草は、アオミズ、イヌビュー、イノコヅチ、オオバコ、カキドオシ、クワ、ゲンノショウコ、シロザ、スギナ、スベリヒユ、ツユクサ、ドクダミ、ノカンゾウ、ハコベ、ハキダメギク、ユキノシタ、ヨモギなど。夏を過ぎると野草はアクが強くなるため、夏から秋は食べられるものは少ない時期です。
摘み方のポイントは次のとおり。①柔らかい葉を選ぶこと。②犬や猫の排泄物がありそうな場所や、農薬を撒いた畑などは避けること。③形状が似た、同じ種の野草の中には、毒性を持つものもあるので、見分けにくいときは摘むのを避けるか、野草に詳しい人に確認すること。

たしかに実際に野原を観察してみると、形の似ている野草が多々見られました。野草を的確に選べるようになるには、日々自然を感じながら、植物と仲良くなることが必要―と教えられました。
野草摘みが終わったら、夏秋さんの畑の無農薬野菜も昼食の食材として収穫。オクラ、満願寺トウガラシ、ナスタチウムの花などを皆で採っていきました。この日はちょうど、うす黄色の花オクラが咲き誇る姿が。「花が美しかったり、香りの良い野菜を多く育てているんです。そのほうが、畑仕事がより楽しいでしょう?」と夏秋さん。アロマセラピストらしい感性の豊かさが伺えました。

自然がそうであるように食養生も「バランス」が大切

続いて、石井さんの手ほどきを受けながら、野草や手作り味噌・醤油などを使った昼食づくりを行います。まずは下処理。秋口の野草はアクが強いので、沸騰したお湯に塩を入れてしっかりとアク抜きします。冷水に浸けた後、水と醤油1対1の割り下に15分程浸せば完了。この方法は多くの野草に用いられますが、厳密にいうと、種類や季節によって処理の仕方は違うそうです。

そこから他の具材に混ぜるなどして調理をし、アオミズ(イラクサ科)入りのコロッケが完成(冒頭の写真)。また、石井さんが持ってきてくれたイヌビュー(ヒユ科)の種のふりかけも食卓に並びます。一見、野草が入っているようには見えませんが、そこには石井さんの女性らしい配慮が。
「男性や小さな子どもは野草に苦手意識を持つことも多いんですよね。ですから、ほんの少量ずつサラダやコロッケ、天ぷら、炒め物などいろんな料理に混ぜることがコツです」と石井さん。そうすれば家族も無理なく、毎日でも野草を食せるとか。また、野草は自分の力で生えてくる力があるので、畑で育つ野菜よりもパワーがあり、一度にたくさん摂る必要がないという理由もあります。

仏門と断食との出合いから新たな人生の道を踏み出す

夕方に温泉で一汗流して、晩ごはん。夜は、尼僧の静和さんが用意してくれた精進料理をいただきました。
精進料理と言うと、「一汁一菜」のものと思われがちですが、実はその種類は寺院の数ほどあると言われます。とはいえ、料理も修行の一環であり、生き物の殺生が禁じられていることから、動物性の食材は一切使わないのが基本です。心を静かに保つ上でも、野菜中心で刺激の少ない質素な食が本来は望ましいのですが、静和さんはかつてスペイン料理のお店で腕を奮っていたシェフであることから、見た目や栄養バランス、食後のお酒のつまみにもなることを考慮。スパイスやオリーブオイル、平飼いの鶏の卵をほんの少し使い、多品目の野菜料理と手巻き寿司にアレンジした精進料理を振る舞ってくれました。

「昔と今で生き方や食の価値観が大きく変わりました」と話す静和さん。仏門に入ったきっかけは、過労による体調不良によるものでした。
「9年前、経営していたスペイン料理店がとても忙しくなり、過労から味覚障害になってしまい、お店を若い人に任せることになりました。『これから自分は何ができるのだろう』と考えながら、マクロビオティックを実践したり断食道場に行っていたときに、ふとしたことから東京・の住職と出会ったのです。そしてその後、お寺のお念仏会に出席したときのこと。本堂に上がったら、阿弥陀如来が『やっと来たね、待っていたよ』と語りかけてくれたように感じて……。自然に涙がポロポロこぼれてきました」
以来、当時住んでいた伊豆から都内の本應寺に毎月通いながら、並行してマクロビオティックの知識を深めることに。次第に体調が回復し、導かれるように得度をすることとなりました。

いのちを感じる力を食や自然を通して培う

そして最終日となる二日目の朝。「延命水」と呼ばれる中央アルプスの湧き水を汲み、近くの河原で静かな時間を過ごしてリフレッシュ。その後、天然酵母のパンに野草スープ、庭で採れたフレッシュハーブを加えたバター、食べられるお花、ルバーブや、ブラックベリーにラズベリー、レッドカラントをミックスしてつくった新鮮なジャムなどをブランチでいただいて、しばし贅沢な気分に浸りました(写真上)。食後は、自分に合う植物をフィーリングで見つけるゲームをしたり、ヨモギを使った手浴などを皆で行い、ゆったりした時間を味わいました。

今回のリトリートについて、夏秋さんは「初めて会う人同士が、濃密な時を過ごしたこと自体がとても素敵なこと」と、共に食卓を囲み、野草を探した時間をふり返り、石井さんは、「自然の力をふんだんに受けた今の身体の感覚をぜひ覚えておいてください。元の暮らしに戻ってからも、ときどきその感じを思い出してほしいです」と語り、〝全身で食を味わうこと、自然を感じること〟の大切さを示唆してくれました。
長野・伊那谷の大自然をこよなく愛する女性たちに共通しているのは、いのちと真摯に向き合い、響きあう〝内なる自然力〟。食事療法とは、本来それを甦らせるものなのかもしれません。

「美しくなる食事療法vol.2」の紹介はこちら

こちらの記事は「美しくなる食事療法vol.2」に詳しく掲載しています。
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